陳情された区民の方へのインタビュー

当フォーラムでは、実際に江戸川区に陳情された方にお話を伺い、その経緯など、貴重なご経験をインタビュー形式にして掲載し、皆様と共有していきたいと考えています。

その第1弾として、2008年に日本語学級増設の請願をされた髙橋葉子さんのお話を、3回連続で掲載いたします。ぜひご一読ください。

日本語学級増設の請願 ◇1 請願への道のり◇

髙橋葉子さんの画像
請願についてお話される、髙橋葉子さん

ー髙橋さんが江戸川区内に外国籍児童・生徒のための日本語学級増設の請願をしようと思ったきっかけは何だったのですか?

 

 

 

 請願のいきさつを説明する前に、私がなぜ日本語指導員をするに至ったかをまず話したいと思います。

 

 私は夫の海外赴任に伴い、ブラジルとポルトガルで暮らしていました。ブラジルでは日本人学校があったので特に問題ではありませんでしたが、ポルトガルのリスボンにはなく、そのため当時中学3年と小学6年の子どもたちがアメリカン・スクールで苦労しました。

 

 そういう経験もあって、外国籍の子どもを取り巻く教育事情に関心を持ち始め、日本に帰国後、日本語教師になろうと思いました。

 

 日本語教師になるために2年間勉強し、7年ほど日本語学校で教えつつ、江戸川区教育委員会に日本語のボランティアスタッフとして登録しました。その後、教育委員会から「日本語教育の指導員をやりませんか」と連絡があり、受けることにしました。2003年のことです。

 

 

 

ーどういったカリキュラムがあったのですか?

 

 

 

 周りに日本語の指導員はおらず、これまで培われてきた知見に触れることができない状態で、どのように教えていいのかもわかりませんでした。それまで成人の外国人に教えていたのですが、子どもの教育はそれとはまた別のスキルが必要です。江戸川区でもっとも多い児童の国籍は中国、次いでフィリピン、それから韓国といった順です。彼らをどう指導すればいいのか。年少者教育の専門書を読みはしまいたが、それにかなった教材もなく、たいへん困っていました。

 

 

 江戸川区立葛西中学校には日本語学級があり、面識のあった先生がいたので、相談にのってもらったりもしつつ、私なりの方法で、外国籍の生徒のいる葛西中学校をはじめ小中学校に出かけて教えていました。

 

 

 日本語を指導しはじめてわかったのは、1年半くらい勉強したら日常会話は話せるようになりますが、それで教科の理解が完全かというと、そうではありません。特に中学校に進むと難しくなります。学習のための言語は生活言語と違うので、教科支援を個別に行う必要があると思い、自宅を開放して行うことにしました。

 

 

 

ー当時の外国籍生徒をめぐる教育環境はどういうものでしたか?

 

 

 

 「取り出し」といって、学級から外国籍の子どもたちを取り出して、教育相談室とか空いているスペースを充てられ、そこで一対一で指導していました。あくまで外部から指導員が来たとき、その場を設けて対応する学校がほとんどでした。

 

 

 だいたいは、外国籍の子どもが転入したら教育委員会に日本語指導員の派遣を依頼しますが、それも80時間だけであとはフォローがありません。

 

 しかも、そういう制度があるにもかかわらず、手当を受けない生徒も見られます。彼らは次第に嫌になって学校にも来なくなるし、連絡がとれなくなる。そういう子を何人も見ています。

 私の場合、教育相談室を用意されるのはまだ良い方で、教材室をあてがわれたこともありました。教材が置いてあるので、ふだん生徒は入れません。人が入らないので掃除もされておらず、テーブルには教材と埃だらけ。どうしたって勉強する気にならないような環境です。私がすることは、まず雑巾でテーブルを拭くことでした。

 

 そういった現状を副校長に言っても改善されず、生徒の学習状況を報告しても、その内容を見ておらず、担任にもまわしていなかった。ともかく子どもが日本語を理解したかどうかには興味がありませんでした。

 

 

 そもそもの問題は指導にあたってのガイドラインが教育委員会にはなかったことです。依頼する限りは、「こういう本を使いなさい」とか「こういう人に尋ねなさい」はあってもおかしくないと思いましたが、まったくありません。そこで教育委員会に提言することにしました。

 

 単身乗り込んでもまともに相手にされないとは思っていたので、知人の議員と一緒に行きました。応対した指導主事は確かに話を聞いてくれましたが、「なるほど」というだけで、こちらの意見を実行する気はありません。

 

 再度、提言するにも指導主事はどんどん変わってしまい、また始めから話をしなくてはいけないありさまでした。

 

葛西中学校の画像
江戸川区立葛西中学校

ーどういったことをこれまでに要求されたのですか?

 

 たとえば、子どもの学習の進行状況だとかどういうことを学んでいるかを個々に報告することはできるけれど、評価の規準となるフォームをつくって欲しいと依頼しました。いろんなことを要求したけれど「わかりました」だけで何もしてくれない。

 

 そこで子どもを指導するにあたって必要だから、「私の分の教科書が欲しい」という単純な内容を示すことで、どういう対応をするか委員会の姿勢を見極めてみることにしました。結論を言うと、教科書は貰えませんでした。

 

ーなぜでしょうか?

 

 教科書は無償なので、生徒数の分しか配布しないのです。ツテを頼ってどこかから貰わないといけない。私としては、日本語を指導するなら教科内容にも当然触れるから、教科書は必要だと思っての要望でした。

 けれども教育委員会はこう言いました。「あなたには日本語指導を依頼したのであって教科については頼んでいない」。

 

 考えてみるまでもなく、外国籍の生徒たちも「おはよう」「こんにちは」の会話だけで学校生活を過ごしているわけではありません。教科を理解しようと日本語を習っているわけですから、当然教科書に触れた内容も話題にしなくてはいけない。

 教育委員会とけっこうなやり取りがあって、最終的には私の分の教科書は貰えはしませんが、貸してくれることになりました。

 

 とにかく一連のやり取りで思ったのは、とりあえず”外国籍の生徒に教育している”という事実をつくりたいためにやっているというものでした。学校にとってそういう生徒はあくまで例外で、本音のところは招かれざる客なのではないかと感じました。

 

<次回に続きます>